東京高等裁判所 昭和33年(う)753号 判決
被告人 植野禎一
〔抄 録〕
所論の要旨とするところは、本件は、公訴提起の前提である告発が適法な権限を有する関係係官によつてなされていないため、右告発は無効であり、従つて、本件公訴は不適法であるのに、原審においては、弁護人のした公訴棄却の申立を排斥し、被告人に対し、有罪の判決を言渡したのであるから、原判決には、法令の解釈を誤り、不法に公訴を受理した違法があつて、破棄を免れないということにある。よつて案ずるに、たばこ専売法第七九条第三項に基く国税犯則取締法所定の収税官吏の職務を行う日本専売公社の職員である専売監視は、同公社の総裁の推薦に基き、大蔵大臣が指定することに定められていることは、所論のとおりであつて、被告人の本件たばこ専売法違反事件の告発人である仲田祐幸が、右専売監視に指定されるについては、日本専売公社総裁から、昭和三一年二月一日附書面によつて推薦がなされたのに基き、大蔵大臣から、同年同月一四日附書面をもつて右公社総裁に対し、同年一月二〇日附で右仲田祐幸を専売監視に指定した旨の通知がなされたことは、記録に照らし、所論の指摘するとおりである。所論は、右のように、公社総裁の推薦の日より遡つて指定することは、関係法令に規定がなく、許されないものであるから、その指定自体が全面的に無効であり、従つて、右仲田祐幸は、適法に専売監視の資格を取得したものでないから、同人のした本件たばこ専売法違反事件の告発は無効である。それ故、本件公訴は、訴訟条件である告発を欠くため不適法であり、原判決は、不法に公訴を受理したものである旨主張するのであるが、しかし、右の専売監視の指定は、その指定された当該本人が、右指定の辞令を受領するか、又は、その発令の通知を受けたときにおいて、始めてその効力を生じ、適法に専売監視たる資格を取得するものであつて、辞令の日附は、必ずしも指定の要件ではないと解すべきであるから、辞令の日附を遡らしたからといつて、これがため、その指定行為自体が全面的に無効となるものではないと解するのが相当であると考えられるところ本件についてみるに、記録に編綴されている昭和三二年一一月一五日附大蔵大臣官房日本専売公社副監理官添良之助作成名義東京地方検察庁公判部検事中川一宛の照会に対する回答書に徴するときは、前掲仲田祐幸に対する専売監視の指定については、前示のように、その辞令の日附が公社総裁の推薦の日より遡つてはいるけれども、事実上の指定行為自体は、公社総裁の二月一日附推薦があつた後において、該推薦に基いて行われたものであり、ただ、その辞令の日附だけが一月二〇日となつているに過ぎないものであることが認め得られるのであつて、右の指定が、たばこ専売法第七九条第三項の規定に基き行われたものであることは、明らかであるといわなければならない。そして、前示の回答書によれば、右の指定は、昭和三一年二月一四日附書面をもつて大蔵大臣より公社総裁に通知された事実が認められるのであり、右仲田本人が、いつ、その発令の通知を受けたものであるかは、右回答書のみによつては明らかではないけれども、証人仲田祐幸の当審公廷における供述によれば、右仲田本人は、同年二月二八日に至つて前示専売監視指定の辞令を受領した事実を認め得られるのであるから、同人は、少くとも同日以降は、適法に専売監視の資格を有していたことが認め得られるのであるが、被告人に対する本件たばこ専売違反事件の告発がなされたのは、右辞令受領の日の後である昭和三二年八月二九日であることが記録上明白であるから、右告発は、適法な権限を有する専売監視によつて行われたものであつて、もとより適法な効力を生じたものというべく、本件公訴提起のための訴訟条件として欠けるところのないものといわなければならない。してみれば、本件公訴は適法であるから、原判決が原審弁護人の主張に対し、所論摘録のような判断を示して、その公訴棄却の申立を排斥したのは、結局相当であつて、原判決には、この点につき、所論のような法令の解釈を誤り、不当に公訴を受理した違法があるものということはできない。論旨は理由がない。
(中西 山田 鈴木)